マンション管理組合の理事長に就任された皆様、日々の運営業務、誠にお疲れ様です。特に輪番制で理事長に就任された方は、専門外の業務に戸惑いながらも、居住者の皆様の快適な生活と資産価値を守るため、多大なプレッシャーの中で奮闘されていることと存じます。
日々の業務の中でも、特にストレスの原因となりやすいのが「清掃」に関する問題です。
「最近、エントランスの床がいつも汚れている」
「ゴミ置き場から異臭がする」
「清掃業者に高い費用を払っているのに、本当に仕事をしているのか?」
こうした居住者様からのご不満やご自身の疑念は、理事長様にとって大きな悩みとなります。かといって、清掃スタッフの方に直接「手抜きではないか?」と問いただすのは、感情的なしこりを生みかねず、得策ではありません。
実は、清掃品質が低下する背景には、「手抜き」という一言では片付けられない、構造的な原因が隠れていることが多いのです。
この記事では、「マンション管理」における「清掃」業務の品質に疑問を感じた理事長様が、感情論ではなく、客観的な事実に基づいて問題を把握し、清掃業者に対して「具体的」かつ「効果的」な改善を要求するための、プロフェッショナルな手順を詳しく解説いたします。
なぜ「清掃品質が低い」と感じるのか? 5つの構造的な原因
「清掃が不十分だ」と感じる原因は、現場スタッフの怠慢だけとは限りません。多くの場合、以下のようないくつかの原因が組み合わさっています。問題を特定するために、まずは冷静に原因を分析してみましょう。
原因1:そもそも「清掃範囲外」になっている
最も多いすれ違いの一つです。理事長様や居住者様が「汚れている」と指摘した箇所(例えば、高い場所にある換気扇や照明器具の内部など)が、現在の契約の「清掃仕様書」に含まれていないケースです。
仕様書に「清掃は手の届く範囲までとする」といった一文が入っている場合、それ以上の作業は契約上「範囲外」となります。これは業者の手抜きではなく、契約内容と期待値のズレが原因です。
原因2:契約内容が現場スタッフに伝わっていない
清掃仕様書には明記されているにもかかわらず、現場で実行されていないケースです。これは、清掃業者の営業担当者から、現場の清掃スタッフへ業務内容が正確に引き継がれていない可能性があります。
特に、現場のスタッフが交代した直後などは、こうした引き継ぎ漏れが発生しやすくなります。この場合、悪いのは現場スタッフではなく、業者の管理体制(教育体制)にあると言えます。
原因3:清掃方法が間違っている
清掃スタッフは真面目に作業しているものの、汚れの特性に合った清掃ができていないケースです。例えば、共用廊下に付着した油汚れに対して、洗剤を使わずに水拭きだけを繰り返していては、汚れは落ちません。
これは、清掃スタッフが必要な知識や技術、または適切な道具(洗剤や機材)を持っていないことが原因である可能性が高いです。埃(ほこり)汚れには静電気モップ、油汚れには専用洗剤、といった基本的な使い分けが教育されていないことも考えられます。
原因4:汚れの速度と清掃頻度が合っていない
契約当初の想定よりも、特定の場所が汚れるスピードが速い場合もあります。例えば、「換気扇の清掃は月1回」という契約であっても、実際には1週間で埃(ほこり)が目立ってしまう環境であれば、居住者様は「いつも汚れている」と感じてしまいます。
この場合、清掃業者は仕様書通りに作業していても、お客様の満足度は得られません。これは「マンション管理」の実態と「清掃」の仕様書がミスマッチを起こしている状態です。
原因5:清掃スタッフの体制や意識の問題
もちろん、残念ながら清掃スタッフの意識や能力、あるいは体制そのものに問題がある場合もあります。清掃品質へのご指摘で最も多い原因とも言われています。
しかし、これも深掘りすると、「清掃に十分な時間が確保されていない(=契約時間が短すぎる)」「スタッフへの教育が不足している」など、業者側の管理体制に起因することが大半です。
【今すぐ使える】プロの視点「品質チェックリスト」で現状を客観的に把握する
清掃業者に改善を申し入れる前に、理事長様がまず行うべきことは「客観的な事実」を集めることです。「いつも汚れている」という主観的な不満ではなく、「いつ、どこが、どのように」汚れているのかを具体的に記録します。
そのために、プロの「マンション管理」会社も使用する「品質チェックリスト」の考え方を活用しましょう。スマートフォンで写真を撮りながら、以下のポイントを確認するだけでも、強力な交渉材料となります。
具体的な清掃品質チェックポイント
■ エントランス・EVホール
・出入口のガラス扉やステンレス部分(集合ポストなど)に、指紋や汚れ、拭きムラは残っていませんか?
・床面(特に角)に砂や埃(ほこり)は溜まっていませんか?
・EV(エレベーター)のレール部分の溝に、ゴミや埃(ほこり)は詰まっていませんか?
・照明器具や掲示板の上に、埃(ほこり)は積もっていませんか?
■ 廊下・階段
・共用廊下の側溝や排水溝ドレンに、ゴミや落ち葉は詰まっていませんか?
・床に、自転車のタイヤ痕やシールの痕などが長期間放置されていませんか?
・階段の隅に、砂や埃(ほこり)、クモの巣などはありませんか?
・手すりはしっかり拭き上げられていますか?
■ ゴミ置き場
・床が汚れたまま放置されておらず、定期的にブラシ清掃や水洗いされた形跡はありますか?
・ゴミの分別は適切に案内・整理されていますか?
・扉や壁、収集容器は清潔に保たれていますか? 異臭はひどくありませんか?
■ 敷地内(駐輪場・駐車場など)
・落ち葉や明らかなゴミ(吸い殻、空き缶など)は放置されていませんか?
・雑草が放置されていませんか?(除草が契約範囲か要確認)
・放置自転車や放置物があった場合、注意喚起の張り紙をするなど、管理会社として対応した形跡はありますか?
【最重要】清掃業者を動かす「具体的改善」の要求術
チェックリストと写真(証拠)が揃ったら、いよいよ清掃業者(または管理会社のフロント担当)へ改善を要求します。ここで最も重要なのは、「一度きれいにすれば終わり」にさせないことです。
目指すゴールは、その場しのぎの対応ではなく、清掃品質を継続的に高く維持する「仕組み」を作ってもらうことです。
STEP 1:まずは「応急処置」を依頼する
はじめに、現状汚れている箇所について、いつまでに清掃してもらえるかを確認します。通常、清掃不備が原因であれば、無償で迅速に対応(応急処置)してくれるはずです。
ただし、前述の「原因1:清掃範囲外」であった場合は、追加の見積もり(有償)を提示されることもあります。その場合は、その作業が本当に必要か、費用対効果はどうかを理事会で検討する必要があります。
STEP 2:再発防止の「根本改善」を引き出す
応急処置で一時的に美観が回復した後、ここからが本番です。理事長様は業者に対し、「今後、同じ問題が再発しないために、具体的に何を変更・改善するのか」という「根本改善」の報告を求めてください。
この「根本改善」の報告内容こそが、その清掃業者の「実力」を見極める最大のポイントとなります。
×(NG)「曖昧な便利語」に騙されてはいけません
実力のない、あるいは不誠実な業者は、「具体的に何が変わったのか分からない」曖昧な言葉でその場を乗り切ろうとします。こうした「便利語」を使った報告書には注意が必要です。
<便利語を使った「悪い」改善報告の例>
・「社内の品質管理を徹底します」
・「スタッフにしっかり清掃するよう注意します」
・「清掃道具を見直します」
これらの報告は、一見反省しているように見えますが、「具体的に何がどう変わるのか」が一切不明です。これでは理事会や居住者様に説明ができませんし、ほぼ間違いなく問題は再発します。
○(OK)「ルールと行動」の具体的な改善報告を求めましょう
信頼できる業者は、品質悪化の原因を仮説立てし、それを解決するための「具体的な行動の変化」や「ルールの変更」を提示します。理事長様が求めるべきなのは、以下のような報告です。
<ルールや行動が改善された「良い」改善報告の例>
・(原因:頻度のミスマッチ)
→「換気扇の清掃頻度を、仕様書上は『月1回』でしたが、汚れが目立つため『週1回』の巡回清掃に組み込みます」
・(原因:清掃方法の間違い)
→「廊下の油汚れに対し、従来のアルカリ電解水では落ちないと判断し、今後は油汚れ専用洗剤『〇〇』を使用する手順に変更します」
・(原因:現場への伝達ミス)
→「月に1回、本部の担当者が現地でインスペクション(品質確認)を実施し、その結果をチェックシートとして理事長様に提出します」
このように、「回数・頻度」「手順・ルール」「道具・洗剤」「管理体制」のいずれかが、具体的にどう変わるのかを文書で報告させることが、再発防止の鍵となります。
インスペクション(品質評価)で改善を定着させる
業者から具体的な改善報告を受けたら、それで終わりではありません。最後の仕上げとして、理事長様の視点で「本当に改善が実行され、定着しているか」を確認(インスペクション)しましょう。
点数化で「主観」から「客観」へ
もし可能であれば、先のチェックリストを使い、「良い(2点)・普通(1点)・悪い(0点)」のように点数化してみることをお勧めします。
例えば、チェック項目が10個あれば、満点は20点です。これを毎月記録することで、「先月は12点だったが、改善要求後は18点に上がった」「雨の多い月は点数が下がりがちだ」といった傾向が客観的なデータとして掴めるようになります。
業者と結果を共有し、継続的な関係を築く
このインスペクションの結果は、ぜひ清掃業者と共有してください。点数が良ければ「おかげさまで居住者からも好評です」と感謝を伝え、悪ければ「この部分の点数が低いままです」と再度改善を求めることができます。
「マンション管理」における「清掃」とは、業者と管理組合が「敵対」するものではなく、居住者の快適な生活という共通のゴールを目指す「パートナー」であるべきです。客観的なデータに基づく対話は、業者側のモチベーション向上にもつながり、良好な関係を築く上で非常に有効です。
まとめ:日々の「マンション管理」における「清掃」の悩み、専門家にご相談ください
マンションの清掃品質に不満を感じたとき、大切なのは感情的にならず、冷静に「原因」を分析し、「客観的なデータ」を集め、「具体的な改善行動」を要求することです。ご紹介したチェックリストや改善要求術は、理事長様が清掃業者と対話する際の強力な武器となります。
こうした日々の地道な管理業務の積み重ねこそが、マンションの美観と衛生を維持し、結果として大切な資産価値を守ることにつながります。
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